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将来、和牛は『WAGYU』としてアジアの食肉ビジネスを席巻するだろう!?

世界最大の牧場主、ジーナ・ラインハートが考えてること

今年の3月にBloombergの記事にこんな見出しの記事が飛び込んだ

中国のグルメ向け3万円ステーキに照準-豪女性富豪、飼育牛増やす

オーストラリア首位の女性富豪ジーナ・ラインハート氏は、肉牛の飼育数を増やしている。中国のグルメたちに向けてプレミアムステーキの供給を増やすためだ。

Bloomberg

この中国富裕層向けに豪州企業が牛肉ビジネスで攻勢している背景というのが、なかなか面白いので、まずはそこからご紹介します。

ジーナ・ラインハートとは豪州No1の資産家として有名な人物で鉄鉱石を扱う企業「ハンコック・プロスペクティング社」を率いる女性経営者です。

先代の父親が亡くなった時に、一人娘であったために会社をすべて引き継ぐことになり、その後も経営手腕を発揮し増収増益を繰り返し世界で27番目にお金持ちの地位を築いた方です。

このジーナ・ラインハートと世界の牛肉市場がどう繋がって来るかといえば、実はこの人物は世界最大の牧場主でもあるんです。厳密に言うと世界最大の牧場主になったです。

2016年に豪州でシドニー・キッドマン(以下:Sキッドマン)という肉用種を18万頭肥育する超巨大牧場が売却に出され、Sキッドマンをジーナ・ラインハートが率いるハンコック・プロスペクティング社と中国の企業(上海CRED)が買収。

この買収劇は過去2度、海CREDで実行し豪州政府に棄却されたが、3度目にジーナ・ラインハートと企業連合を組み買収に成功、18万頭を肥育する世界最大の牧場主ジーナ・ラインハートが誕生しました。

そしてジーナ・ラインハートは肉牛の飼育数を2-3年以内に25%増やし約20万頭とすることを目指している。と表明しています。すごい頭数ですよねw

中国企業がどうしても欲しかったSキッドマン。実に北海道や韓国と同規模の面積を保有している巨大牧場です。この買収劇に手をかしたジーナ・ラインハート。そして彼女が今一番力を注いでいるのが高値で売れる「WAGYU(和牛)」の育成です。

なぜ門外不出の和牛メソッドは海を渡ってしまったのか

一般にアルファベットWAGYUの定義をここで触れておきます。

このWAGYUという言葉は豪州(オーストラリア)の牛肉を指しています。畜産食肉の関係者は「オーストWAGYU」などと呼んだりしていますね。

どんな条件でWAGYU認定されるかといいますと。

牛の血統の交配割合のうち和牛血統が50%を超えるものがWagyuとして分類され
豪州の牛総飼養頭数の0.9%である約25万頭と推計されている(2015時点)

 

豪州産Wagyuは日本と同様に穀物で肥育されるものの、育成までは放牧主体であり、肥育期間も日本と比較して短く、コストを抑えた豪州の肉牛生産の特徴を最大限に取り入れた生産体系となっている。8~9割はアジアを中心とした輸出市場に仕向けられています。

50%でもWAGYUというブランドを名乗るブランディングの上手さと、市場ターゲットをアジアに絞り込んだ点など、あまりにも計算された展開に驚いてしまいます。

そもそも、和牛の血(血統)がなぜ豪州にあるのか?

北海道の畜産業者だった武田正吾氏が“WAGYU”の生みの親ともいわれるデービッド・ブラックモアに輸出した事が始まりです。輸出は具体的には和牛遺伝子の輸出独占契約を結び、受精卵、精液の輸出を行った形で実行されました。

武田氏は「おいしい和牛を世界中の人に食べてもらいたい」という想いから実行した事も理由の一つと言われているが、国益に反した行為とも考えられ、国内では批判も多くあります。

このデービッド・ブラックモアがまた、やり手なんですがブラックモアは和牛飼育だけでなく、純血種和牛の遺伝子販売も手掛けており、この純血種和牛「フルブラッドWAGYU」が、ジーナ・ラインハートの手に渡ったという経緯で今日の状況になっているわけです。

アジアの牛肉市場はどのくらい魅力的な市場なのか?

豪州やジーナ・ラインハートが産業として狙うアジアの牛肉マーケットというのは、それほどうまみのある市場なんでしょうか?

その市場は一体どの程度の規模まで膨れ上がるのかを調べてみました。農林水産政策研究所によると
2026 年における世界の食料需給見通しを確認すると以下の様な予測になっています。

全世界的に牛肉の消費量は向こう10年は伸びる一方ですね。下がっている地域がないというのも驚きなのですが、アジアの消費量の部分を見ていただくと伸び方が違いますね。

17百万トンから23百万トンですので134%の上昇です。

これはあくまでも消費量の話ですが、
ここに冒頭でお話した“中国のグルメ向け3万円ステーキに照準”といった高級商材で消費されると、市場規模はどんな数字になるんでしょうかね。

先日、上海で豪州産牛肉が100㌘5,000円という数字をつけたそうですから中国市場の全貌が巨大すぎて掴みきれないというのが感想です。

一方、豪州は国内消費伸びていないというのも面白いですね。完全に輸出用商材と割り切っていることが米国と違うところでしょう。

豪州産WAGYUが日本の食卓にあがる日もあるのでしょうね。

デービッド・ブラックモアはこんな事を言っています。
「霜降りなど肉質の面では日本産和牛におよばない」と認める。

 

しかし、世界的に健康志向が高まる中、霜降り偏重の日本産は脂肪分が多すぎてステーキには不向きで、敬遠される恐れがあると指摘。「現地のニーズに合わせた肉質を作る必要がある」

どこまでもプロだなぁと関心してしまいました。私は彼の考え方には好感を持てます。商売というものが根本的に上手なんでしょう。ブランディングやマーケティングにだけハンドルを預けるのではなく、味の嗜好性や客観的分析も良くできているからこその発言なのでしょうね。

推測ですが、この豪州産WAGYUを日本でも逆輸入する様なトレンドは来るのではないかと感じています。それは、当然あって良いことだと感じていますし、どちらかというと賛成です。

それは、美味しさに対して自らの味覚で判断をするような、そんな流れが来るのかと思うと畜産家としては楽しみでもあります。

国産、和牛、外国産、乳牛、という区分から、牧場単位の様な牛肉のセレクトができるキッカケが来るのであれば、我々ハローストレンジャーも対オーストWAGYUに挑戦をしてみたい世界だと考えていたりします。

武田正吾氏の「おいしい和牛を世界中の人に食べてもらいたい」という言葉には産業の保守などといったことよりも、もっと本質的な味覚に対する生産者の要求というものを感じる事もできると思います。

今回の記事では、現在世界で起こっている和牛(WAGYU)を巡るトレンドを説明してみました、経済性という側面からアプローチした内容にはなっていますが、確実に日本の食卓にも変化をもたらす一手だと感じています。

「和牛は日本のものだ!!」という先入観は既に過去のものになりつつあり、1つの品種、血統としてオープンに開放された時代になって来たようです。

こうした時代にとって、舌で味わい、美味しいものが美味しいというシンプルな食卓になってほしいですね。